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“オートフォーカス”アイウェア 「Vixion01S」一般販売開始。視力が悪い筆者が体験してみた

オートフォーカスアイウェア「Vixion01S」

Vixionは、自動でピントを合わせることで、近くも遠くもはっきり見えるオートフォーカスアイウェア「Vixion01S」の一般販売を5日から開始した。ビックカメラ、ヨドバシカメラ、Amazonなどで販売を開始しており、価格は8万円(税別)。ビックとヨドバシでは、体験可能店舗もある。

一般販売にあわせて、Vixion01Sと連携する専用アプリ「vixion connect」も大幅にアップデート。使用者の好みに合わせた動作カスタマイズや、アプリ上で機能を追加・管理でき、自分好みのアイウェア体験も可能になる。さらに、日常的な使用傾向を記録・分析する機能も追加されている。

一般販売に合わせ、メディア向け体験会が開催。実際にVixion01Sの見え方を試してみた。

「Vixion01S」

Vixion01Sを装着してみる

人間の眼の中には、水晶体というレンズのような働きをするものが入っており、毛様体筋という筋肉でその水晶体の厚さを変える事で、近くのものから、遠くのものまでピントを合わせている。

Vixion01Sは、この仕組みをデバイス化したようなアイウェアで、電気的な処理でピントを変えられる、小さな丸い特殊レンズを中央に配置。さらに、アイウェアの眉間の部分に、赤外線を使って対称との距離をミリ単位で測定する高精度なTOFセンサーも搭載。センサーで測定した距離情報をもとに、装着したユーザーが見やすいように丸い特殊レンズをリアルタイムで変化させ、遠くのものから近くのものまで、快適に見ることができるようにしている。

ピントを変えられる、小さな丸い特殊レンズが見える

実際に装着しよう。ちなみに、筆者はメガネが無ければ、隣にいる人もボヤケてよく見えないほど視力が悪い。

メガネを外し、裸眼の状態でVixion01Sを装着する。まずは鼻当ての部分を調整して、メガネがずり落ちないようにする。

丸い小さな特殊レンズは、左右にスライドする機構になっており、左右の特殊レンズが、左右の目に合うように位置を調整する。双眼鏡を覗いた時のように、レンズを通して見る世界が、2つに分離せず、1つになる場所を探すイメージだ。

小さな丸いレンズの位置は、このように調整できる

この瞳孔間距離の調整が終わったら、ヒンジの根本部分に位置する左右のレバーを使い、左右の目のどちらも、見ているものにビシッとフォーカスが合うようにピントの調整をする。これができれば、キャリブレーションは完了だ。

あとは、遠くの窓の外も、近くにある本も、顔を向けると瞬時にオートフォーカスでピントが合焦する。実際の見え方は、以下の動画のイメージを参考にしてほしい。

ViXion01S 見え方イメージ

筆者は近眼で、老眼も少し入ってきているため、最近ではメガネを装着した状態で、遠くは見えるが、手元のスマホ画面が見づらく、メガネを外して見る事も増えてきた。しかし、Vixion01Sではそんなことをしなくても、装着したままで、遠くの景色を見てから、手元のスマホに視線を移すだけで、スマホの画面にビシッと合焦してくれる。オートフォーカスが高速かつ静かなので、合焦するまで時間がかかってイライラするような事もない。

体験会の会場で、Vixion01Sを装着しながら取材をしていたが、もう“快適”のヒトコト。遠くのディスプレイに表示されているパワーポイントの資料を見て、メモをとっている手元のノートパソコンに視線を移動させても、瞬時にノートパソコンの画面が見えるので、ストレスが無い。

近くにある、小さなものが見やすく、かつ両手がフリーであるため、プラモデル作りが趣味の人や、漫画家、イラストレーター、読書が趣味な人、電子工作、さらには仏像や伝統工芸、機械エンジニアなどからも「メガネを着けたり外したりするストレスが無くなった」「若い頃にできていた細かい作業が、再びできるようになった」と好評とのこと。ユニークなところでは、歯科医から特に好評で、専用モデルの開発にも取り掛かっているという。

見え方に関しては、ピントが変えられる丸い特殊レンズが小さいので、“穴を通して外を見ている”感覚はある。ただ、例えば、パーツが細かなプラモデルを組む時や、細かい字を書く時などは、視界の中央に意識を集中しているので、しばらく使っているとあまり気にならなくなってくる。

もう少し、特殊レンズが大きいと文句なしなのだが、技術的に、大きなサイズの特殊レンズを作るのは難易度が高いそうだ。ただし、今後もレンズの大型化に向けた注力はしていくという。

なお、オートフォーカスレンズの外側にあるのはアウターレンズ(ダミーレンズ)で、取り外す事も可能。機能的には、アウターレンズを外しても問題はない。また、アウターレンズをサングラスのように遮光、偏光レンズにすると、オートフォーカスレンズの黒枠が目立たなくなるという利点もある。

アウターレンズ(ダミーレンズ)はこのように取り外せる
取り外した状態でも使用可能だ
サングラスにすれば、丸いレンズも目立たなくなる

また、アウターレンズを乱視対応、ブルーライトカットなどにする事も可能。ユーザーの好みに合わせたカスタマイズができる。

装着しながら実感するのは、VR用のヘッドマウントディスプレイなどと比べ、Vixion01Sが非常に軽いこと。前モデルに比べ約40%の軽量化(アウターフレームなしの場合)を実現しており、アウターフレームなしでは33gに抑えられている。

この軽さで、3.7Vのリチウムポリマーバッテリー(150mAh)も内蔵。充電時間約3時間で、最大約15時間使えるという。このスタミナ仕様であれば、メガネのような感覚で常用できるだろう。なお、充電はUSB-C経由で行なう。

USB-C経由で充電する

アプリで機能追加も

専用アプリ「vixion connect」

一般販売にあわせて、大幅にアップデートされた専用アプリ「vixion connect」も試してみた。

Vixion01Sと接続していると、フォーカス距離やピントの補正具合、搭載しているジャイロセンサーで検出している首の角度などを、ほぼリアルタイムで表示してくれる。

キャリブレーションの際に、ボディのレバーを使って行なっていた、ピントの調節はアプリからも可能で、レバー操作よりもさらに細かく調整できる。オートフォーカスをOFFにして、マニュアルフォーカスにする事も可能だ。

アプリからでは、より細かくピント調整が可能

追加された機能として、キャリブレーションなどの設定を、3つのプリセットとして保存できるようになった。これにより、例えば職場で1台のVixion01Sを、複数人で使いまわしている時に、個人個人の設定を素早く読み出せるようになった。

個人設定の保存、読み出しが可能になった

さらに、度数設定の変化点を記録し、週/月/年単位で推移を表示・保存できるようにもなった。今後、眼を中心としたヘルスケアデータの取得・活用も構想しているという。

また、前述の通り、Vixion01Sにはジャイロセンサーを搭載しているため、姿勢の情報を得る事もできる。これを活用し、例えば「本を読む時の姿勢が悪い時にアラートする」といった機能なども検討しているそうだ。

また、アプリ上で機能を追加・管理する機能も新たに追加。追加機能の第1弾として、プラモデル作りなどの精密作業をする時に、頻繁にフォーカスが変わらないように、近距離(500mm未満)での作業用として、2秒ごとにフォーカス距離を更新・保持する機能を追加。

さらに、近距離から遠距離への視点移動時、3秒かけて段階的にフォーカスを変更し、急激な変化による不快感を軽減する機能も追加。今後も、このような新機能を、アプリで取得し、Vixion01Sで使えるようにしていくという。

“見えにくさ”で困っている子供達との出会いが開発のキッカケ

南部誠一郎社長

南部誠一郎社長は、国連の調査により、2050年には世界人口100億人の内、半分の50億人が近視者となり、さらにその内の10億人がより眼が悪い強度近視者になるという予測があることを紹介。

既に日本でも若年層の近視が増加しており、小学生の3人に1人は視力1.0未満、中学生と高校生では6割以上を占めているという。

こうした“見えにくさ”は、年間でおよそ4,107億ドルもの経済損失をもたらすとされているだけでなく、疲労につながったり、やりたい事ができなくなるという事にも繋がる事になる。

南部社長は、「我々は“ハードウェアのスタートアップ”と言われるのですが、我々は常に“テクノロジーで人生の選択肢を拡げる”事を大切にしています。新しいデバイスを世の中に出して、それが売れれば良いというものではなく、これまで出来なかった事ができる、昔できていた事が加齢や様々な理由でできなくなり、何かを諦めなければならなかったような方々に、身体拡張技術を活用し、できなかったことができるようなる。その方の人生における選択肢を増やせるお手伝いができればと考えています」と、想いを語る。

取締役・開発責任者の内海俊晴氏によれば、オートフォーカスアイウェア誕生のキッカケは、その前の製品である暗所視支援眼鏡「MW10 HIKARI」の体験会で、弱視で苦労している子供たちに出会った事だった。

取締役・開発責任者の内海俊晴氏

「全国の視覚障がい者の方達の協会や団体に伺ったのですが、そこで単眼鏡を使って、遠くの黒板や近くのノートを見て学ぶ盲学校の子供たちの姿を目にしました。とても不便そうでしたが、通常の眼鏡のレンズでは、その子供たちの見え方をサポートするには限界がありました。そこで、“次は弱視の方達が便利に使えるものを作ろう”と思ったのです」(内海氏)。

内海氏は、「これからも、“見えにくさ”で困っている全世界の方に、届けられるように開発を進めていきたい」と決意を語った。

内海氏が手掛けた試作機も展示された
山崎健太郎